チューリップ
あれは私がひとり暮らしを始めた秋口だった
私が住んでいた1階には庭があり
何の気なしに母が庭にチューリップの球根を埋めた
まだ母が元気なころだった
なんでこんなところに・・と正直思った。
あの頃は仕事が忙しく
お花の世話なんてとてもする時間もなかった
なので私の中からチューリップの存在は消えていった
放っておいてしまっていた
おそらく、母が世話をしてくれていたんだと
今になって思っている。
翌年の春に一輪のチューリップが咲いていた。
見事なまでにキレイに咲いていた。
それからしばらくして母にガンが見つかり
母の看病や仕事などでやっぱりチューリップのことは
忘れてしまっていた。
母の余命がわずかになった次の春に
あの場所にチューリップが咲いた
しかも3つ。
世話を怠っていたのに見事に咲いてくれた。
命を感じた。
うれしくて病院に入院していた母にメールをした。写真付きで
「よかったね。」って返信がきた。
その3週間後母は亡くなった。私の誕生日の5日前に。
今でもチューリップをみると思い出す。
母が庭にチューリップを埋めたあの姿を。